ゴール前の攻防でボールが地面に沈む一瞬こそ、ラグビーの醍醐味だと感じていませんか?トライのルールや判定の考え方を体系的に押さえると、試合の見え方が一段深くなります。
本稿ではトライの定義からよく起こる誤解、戦術的な作り方、トライ後の選択までをひとつながりで整理します。まずは素早く全体像をつかみ、観戦や指導で迷いを減らしていきましょう。
- 定義と得点の基本を明確化し判定の土台を作る。
- トライが生まれる典型パターンを分解して再現性を高める。
- ペナルティトライやキック選択の思考を揃える。
ラグビーのトライの定義と得点の基本を確かめる
トライは攻撃側の選手が相手陣インゴールでボールを地面に明確に押さえたときに認められます。ボールが相手ゴールラインの平面を越えて地面にコントロール下で接触し、保持者または味方の手でグラウンディングが成立することが鍵です。
得点はトライで五点、続くコンバージョンキックは成功で二点が加算されます。ボールを地面に「置く」のではなく「押さえる」ことが重要で、手や腕の一部で確かな圧力がかかっていることが求められます。
定義の要点を一文でまとめる
相手陣のインゴールでボールを支配しながら地面に圧力を加えて接触させるとトライです。ライン上はインゴールに含まれるため、ゴールラインに触れた時点で位置条件は満たされます。
味方の選手が先にインゴールでボールに触れ、その後に別の味方が上から押さえてもグラウンディングとして成立します。逆にコントロールが外れノックオンになれば得点は認められません。
インゴールとタッチの境界を理解する
インゴールはゴールラインからデッドボールラインまでの長方形の区域を指し、両サイドのタッチインゴールとの境界が判定の焦点になります。ボール保持者またはボール自体がタッチインゴールに出た場合、その時点でプレーは終了します。
コーナーフラッグや支柱への接触にまつわる古い通説が残っていることがあります。現在は旗そのものへの接触だけで直ちにタッチ扱いとは限らず、ボールやプレイヤーの位置関係で最終判断が下されます。
グラウンディングの認定で重視される点
審判は「コントロール」「圧力」「接地」の三点を短い時間で見極めます。密集状態ではボールの露出時間が短く、角度によっては見逃しが生じるため副審や映像の助けが入る場合があります。
押し込みモールからの到達やラックの端での伸ばしなど、手や腕以外の接触は原則無効です。胴体や脚での接地は得点とみなされないので、最後は必ず手腕部での明確な圧力を示す必要があります。
得点配分と試合の流れ
トライの五点は試合の針を進める最も大きな単発得点であり、続くキックの可否で合計七点になるかが分かれます。ペナルティトライの場合は妨害がなければ極めて高確率で得点になったとみなされ、キックなしで七点が与えられます。
ショットクロックなど時間管理の規律は試合テンポを保つ役割を持ちます。蹴る位置の角度と距離は成功率に影響するため、サイドライン際のトライは難易度が上がる点も押さえましょう。
無効となる典型例を知る
タックルで倒れた直後に一度完全停止したボール保持者が、地面に再度伸ばして前進させる行為はダブルムーブメントとみなされる場合があります。ノックオンやオブストラクションが絡むときもトライは取り消され、反則側の相手ボールで再開されます。
インゴールでの保持が相手の下で確認できない場合や、相手が下からボールを浮かせて地面との接触を阻止した場合はヘルドアップの扱いになります。再開方法は状況ごとに定められています。
| 状況 | 判定の核心 | 再開/得点 | 留意点 | よくある誤解 |
|---|---|---|---|---|
| 明確な押さえ | 手腕の圧力 | トライ | ライン上も可 | 置くだけは不可ではない |
| 浮かされた接地 | 地面非接触 | ヘルドアップ | 素早い判定 | 一瞬触れれば可ではない |
| ノックオン | 前方落球 | 相手スクラム | 密集で発生 | 接地=得点ではない |
| ダブルムーブ | 倒れた後の前進 | ペナルティ | 一連性が鍵 | 腕の伸ばしは常に可ではない |
| ペナルティトライ | 明白な妨害 | 七点 | キック省略 | 追加キックがある |
ここまでの枠組みを押さえると、映像の角度に惑わされず本質的な確認点に集中できます。次章からはトライを生み出すまでの道筋を分解し、再現性の高いアプローチを描いていきましょう。
ラグビーのトライが生まれる典型パターンと崩しの順序を整理する

同じトライでも到達までの道筋が違えば、相手の守り方に対する答えも変わります。崩しの順序を言語化し、相手の強み弱みを見極めながら選択肢を並べ替えていきましょう。
観戦でも指導でも、個々のプレー名の暗記より「なぜその選択が次に妥当か」を説明できると理解が深まります。段階ごとの手がかりを持つことが判断の速さにつながります。
多相フェーズでの縦横の揺さぶり
狭いサイドで縦を積み重ね守備線を内側から圧縮し、逆サイドへ素早く展開して外で数的優位を作る手順は最も再現性が高い方法です。縦のヒットでプレッシャーをかけるほど、外のディフェンスは内側に吸い寄せられます。
この流れの中でキャリアの姿勢とサポートの距離が重要になります。二人目三人目の到着速度が保たれると、ラックタイムが短くなり守備の並び替えが間に合わなくなります。
ターンオーバー直後のカウンターアタック
キックカウンターやジャッカル成功直後は守備に乱れが生まれます。ボールが散らかる局面で内側のランナーがストレートに走ると、外の選手にスペースが開きラインブレイクが加速します。
再開から五秒以内の意思決定は質の差を生みます。キックかパスかランかの最初の選択で迷わないために、下準備のコールと役割の合意を持っておくと良いでしょう。
モールやピックアンドゴーでの押し込み
ラインアウト起点のドライビングモールはゴール前の王道で、コネクトの精度が成功率を左右します。くずれた瞬間にショートサイドを突くピックアンドゴーへ移行できると、守備の寄りでできた隙を刺せます。
反則を誘う意図で角度をつけすぎるとオブストラクションになり得ます。モールの車輪化で横に動くときも、ボール保持者の位置と結合状態を常に意識しましょう。
セットからの一撃でスペースを生む
スクラムやラインアウトのセットプレーから決め打ちのムーブを出すと、守備が構造的に不利になる地点を狙えます。事前のフェイクやランナーの深さで受け手の角度を作り、肩の弱い方へ差し込みます。
スイッチやアウトサイドの遅れて入るランは視界外から刺さります。パスの軌道と受け手の踏み込みが同期した瞬間にギャップは最大化するので、スピードよりタイミングを優先して合わせましょう。
- 縦の圧力で守備を内側に集める。
- 逆サイド展開で外の数的優位を作る。
- 混乱直後は素早く直線的に刺す。
- モールとピックアンドゴーを往復する。
- 決め打ちムーブで守備の構造を崩す。
- フィニッシュは支持角度と手の位置を最優先。
- 迷ったら深さを確保し時間を買う。
パターンは固定化するほど読まれますが、順序の原理が理解できていれば応用が効きます。次章ではゴール前の再開やセットでトライにつなげる具体の選択肢を掘り下げます。
ラグビーのトライに直結する再開とセットプレーの組み立て方
ゴール前五メートル圏は一手の質で勝敗が動く領域です。再開の種類とセットの選択が噛み合うと、相手の反応を先取りして数手先のトライまで描けます。
選択肢が多いほど迷いも増えるため、事前合意の優先順位を明確にしましょう。強みで押す局面か、相手の弱点を突く局面かを合図で共有すると判断が速くなります。
ラインアウト五メートルの基本形
まずは安全なキャッチと素早い結合でモールを立ち上げ、横移動は最小にして真っすぐ押すのが原則です。押しが止まったらショートサイドの九番が狭い裏を突き、相手フランカーの寄り遅れを突きます。
ロングスローの奇襲は一度だけの価値があります。相手が前に出てきたら後列のインサイドクラッシュを合わせ、守備の内外のギャップを広げます。
スクラムからの一発勝負
ナンバーエイトのピックで十番の内に差すか、十二番の外で速度差を作るかが初手になります。ディフェンスが早く上がる相手には、裏のチップキックでインゴールに転がし走り勝つ方法も有効です。
スクラムの押し勝ちが続くとペナルティが誘発され、アドバンテージ下でのリスクテイクが許容されます。反則がなければ有効だったパスを繰り返すのではなく、一段深いラインへ展開してズレを拡大しましょう。
速い再開で混乱を起こす
ペナルティやフリーキックでは、相手が並び替える前にクイックタップで一気にギャップへ差し込む判断が刺さります。テンポを上げる再開は守備の口頭連絡を遮り、孤立したタックラーを増やします。
ただし孤立は攻撃側にも起こり得るため、サポートラインの準備が条件になります。二人目の到着が遅れるなら、いったん蹴って陣地回復に転じ安全を確保するのが安心です。
| 再開/セット | 初手 | 相手の反応 | 二手目の狙い | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| LO 5m | モール直進 | 内側圧縮 | SH裏突き | 結合崩れ |
| LO 変化 | ロング/ショート | 前進対応 | インサイドクラッシュ | スロー失敗 |
| SCR 5m | 8番ピック | 十番外集中 | 12番外差し | 単独孤立 |
| PK/FK | クイックタップ | 整列遅延 | ショートサイド突破 | サポート不足 |
| ADV中 | 縦の一撃 | 反則継続 | 幅取り展開 | 処理の雑さ |
ゴール前は情報の非対称を作るほど有利になります。サインや合図を簡潔にし、状況に応じて「踏みとどまる」合図も用意するとミスを減らせます。
ラグビーのトライ判定で揉めやすいシーンの考え方を共有する

判定の多くは原理に照らせば整理できますが、現場では視界や角度の制約が混乱を生みます。よくある論点を共通言語化しておけば、選手も観客も納得感を持って次のプレーに移れます。
一度覚えてしまえば難しくはありません。判断の順番を固定し、迷ったら上から順に当てはめるだけで落ち着いて対応できます。
ノックオンとグラウンディングの区別
接地直前に前方へボールが落ちた場合はノックオンが優先し、どれほど速く押さえても得点にはなりません。グラウンディングの成立は「コントロール下の接地」が前提で、順序が逆転することはありません。
密集でボールが見えにくい場面では、最初に見えた接地が本当にボールか手かを見極める必要があります。指先だけの接触では圧力が認定されないことがある点も覚えておきましょう。
タッチ、コーナー、インゴールの錯覚
空中でボールをキャッチした選手の足やボールが外に出ているかが焦点になります。ライン上はインゴールとみなされる一方で、タッチインゴールに出た時点でプレーは終わるため、位置関係の優先順位を整理しましょう。
コーナー付近では旗やポールの存在が錯覚を生みがちです。最終判断はプレーヤーとボールの位置関係に依存し、旗そのものの接触だけで直ちに無効とは限らない点を周知しておくと混乱が減ります。
ヘルドアップと再開の考え方
守備側が下からボールを持ち上げ接地を阻止した場合、攻撃側のグラウンディングは成立しません。インゴールでのこの状況はヘルドアップとして扱われ、所定の方法で試合が再開されます。
攻撃側は無理に腕を差し込むよりも、次の再開で優位を取る設計に切り替えると良いでしょう。連続して同じ形を試みるより、角度と速度を変える発想が得点確率を押し上げます。
- まずノックオンの有無を確認する。
- 次にボールと地面の明確な接触を探す。
- 保持のコントロールと圧力を評価する。
- 位置関係をライン基準で確定する。
- 妨害があればペナルティトライを検討する。
- 再開方法は状況別の規律に従う。
- 迷ったら優先順位に沿って遡る。
共通言語があれば判定の見解が割れても落ち着いて議論できます。次はペナルティトライの条件と、気持ちの切り替え方を整えていきましょう。
ラグビーのペナルティトライと試合運びの要点を押さえる
妨害がなければほぼ確実にトライになっていたと判断される場合、主審はペナルティトライを与えます。これはキックを伴わず七点が即時に記録されるため、試合の流れを大きく変える局面になります。
守備側の故意や危険なプレーが絡むと個人の制裁も連動する場合があります。冷静に規律を理解し、余計な反則の連鎖を断ち切る姿勢が求められます。
付与の考え方と典型場面
モールの崩しやインテンショナルノックオンなど、得点機会の明白な阻止が条件になります。ラインブレイク後に後方からの高い危険タックルが入った場合なども、得点可能性の高さに基づき判断が下されます。
主審は「妨害がなければどうなっていたか」を基準に見極めます。攻撃側は感情的にならず、次のキックオフからの再現に集中すると試合運びが安定します。
制裁と数的不利のマネジメント
危険な妨害にはイエローカードが併発することがあり、一時的に数的不利が生まれます。この時間帯は陣地とボール保持の両方を確保し、不要なオフロードを控えるのがおすすめです。
逆に数的優位を得た側はテンポを落としすぎないことが大切です。ゴール前の再開を重ねて相手の反則を誘うと、心理的な圧迫がさらに大きくなります。
心の切り替えと次の一手
判定に納得できない瞬間でも、次のキックオフまでに呼吸と役割を再確認するだけでミスが減ります。キャプテンの短い合図で全員の共通認識を揃え、不要な抗議を避けると集中力が戻ります。
ペナルティトライで追いつかれた直後は、敵陣での長いフェーズを計画し時計を味方にするのが安心です。スコアボードを見ながら、三点ではなく五点七点を狙う時間帯かを落ち着いて判断しましょう。
- 妨害がなければ得点だったかを基準に考える。
- 危険プレーには個人制裁が連動することを理解する。
- 数的不利ではボール保持と陣地を最優先にする。
- 数的優位ではテンポを保ち反則を誘う。
- 判定直後は呼吸と合図で集中を取り戻す。
- スコア状況に応じて三点と七点の価値を比較する。
- 感情の連鎖を断ち切り次のプレーに向かう。
規律と心理の両輪を整えると、難しい時間帯でも崩れにくくなります。最後にトライ後のキック選択と配置の考え方をまとめましょう。
ラグビーのトライ後に選ぶコンバージョンとキック戦略を磨く
トライは終点ではなく次の二点への入口です。角度と距離、風とピッチ、蹴り手の得意軌道を組み合わせると、限られた時間内で最適化された選択が可能になります。
観戦でもこの思考を持つと緊張の瞬間が読み解けます。位置と角度の意味がわかると、得点の積み上げが戦略的に見えてきます。
キック位置の設計と思考の順番
コンバージョンはトライが生まれた地点の延長線上に置かれるため、サイド際での得点は角度が厳しくなります。フィニッシュの最後の二歩で内側へ寄せる意識が、二点の積み上げを押し上げます。
中央寄りでの得点を狙うために、外で抜けても最後はポール中央に向けて戻す発想が役立ちます。パスの最終角度とランのベクトルを合わせると、キックの難易度を下げる設計が可能です。
プレースとドロップの使い分け
通常はプレースキックが選ばれますが、時間やピッチ状態が悪い場合はドロップで素早く蹴る判断も視野に入ります。蹴り手のルーティンとリズムが揺さぶられない準備が成功率を安定させます。
風向きや芝の湿りは最後の一押しを左右します。助走の角度とボールの傾きの一体感を保つと、ミスの再現性を下げて粘り強く二点を拾えます。
ショットクロックとチームの役割分担
制限時間の管理は蹴り手一人の責任ではなく、周囲の役割分担で守るのが効率的です。ボールセット、風情報、残り時間のコールを分散すると、蹴り手は動作に集中できます。
成功を前提に次のキックオフ配置まで視野を広げ、キック後の最初のターゲットやランナーのルートを整えておくと良いでしょう。小さな準備の差が次の得点機会の創出につながります。
- 得点地点の延長線を意識して角度を管理する。
- 中央へ寄せるフィニッシュで成功率を高める。
- 時間やピッチでドロップを選ぶ柔軟性を持つ。
- 風と芝に合わせ助走と傾きを同期させる。
- 制限時間の管理はチームで分担する。
- 次のキックオフ配置まで一連で設計する。
- ルーティンを守り再現性で上回る。
キックの二点は小さく見えて勝敗を分けます。フィニッシュから配置、再開までを一本の線で結ぶ発想が、終盤の粘り強さを底上げします。
まとめ
トライは「コントロール下の接地」という原理に尽き、位置関係と反則の有無を順に確認すれば多くの判定は整理できます。崩しの順序と再開の設計を共有すれば、観戦も指導も納得感が増し迷いが減ります。
今日からは得点の瞬間だけでなく、前後の選択や角度の意味まで目を配ってみてください。ラグビーのトライが立体的に見え、試合の時間を自分の味方にできるはずです。



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