大学ラグビー界において、圧倒的な存在感を放つ「深紅の王者」帝京大学。前人未到の大学選手権9連覇という金字塔を打ち立て、現在もトップリーグや日本代表へ数多くの名選手を輩出し続けています。
なぜ帝京大学はこれほどまでに強くなったのでしょうか。その答えは、時代を築き上げてきた指揮官たちの揺るぎない信念と、革新的な組織マネジメントにあります。
本記事では、創部から現在に至るまでの軌跡を振り返りながら、チームを変革した指導者たちの哲学を紐解いていきます。
| 時代 | 監督名 | 主な功績・特徴 |
|---|---|---|
| 黎明期~ | 増村昭策 他 | チームの基盤作り、関東大学対抗戦グループへの定着 |
| 1996年~ | 岩出雅之 | 大学選手権9連覇(V9)、脱・体育会系マネジメント |
| 2022年~ | 相馬朋和 | 大学日本一奪還、強力なスクラムとフィジカルの継承 |
帝京大学ラグビー部の歴代監督とチームの進化を紐解く
帝京大学ラグビー部が現在の地位を確立するまでには、長い歴史と指導者たちの絶え間ない努力がありました。ここでは、創部から現在に至るまでの歴代監督の流れと、それぞれの時代におけるチームの変化について詳細に解説します。
創部から黎明期を支えた指導者たち
1970年に創部された帝京大学ラグビー部は、当初は決して強豪と呼ばれる存在ではありませんでした。当時の指導者たちは、ラグビー経験の浅い学生たちを熱心に指導し、まずは関東大学対抗戦グループでの定着を目指して土台作りに奔走しました。
練習環境も現在のように恵まれたものではなく、限られたリソースの中で工夫を凝らしながら強化を進めていった時代です。この時期の地道な努力がなければ、後の飛躍はあり得なかったと言えるでしょう。歴代のOBたちが築いた「諦めない精神」は、形を変えながら今も部員たちに受け継がれています。
増村昭策監督による強化と初の大学選手権
チームが徐々に力をつけ始めた1990年代、重要な役割を果たしたのが増村昭策氏らによる指導体制です。特にフィジカル面での強化や、組織的なディフェンスの導入など、近代ラグビーへの適応が進められました。
この時代には、強豪校とも互角に渡り合える試合が増え、ついに大学選手権への出場権を獲得するなど、全国区のチームへと成長する足掛かりを作りました。選手個々の能力だけに頼るのではなく、チーム全体で戦うという帝京ラグビーの原点が、この時期に形成されつつあったのです。
岩出雅之監督の就任と革命的指導
1996年、岩出雅之氏が監督に就任したことで、帝京大学ラグビー部は劇的な変貌を遂げることになります。岩出監督は、旧来の「体育会系」の常識を覆す科学的なトレーニングと、学生の自主性を重んじるマネジメントを導入しました。
栄養管理の徹底や、上級生が下級生の雑用を行う「掃除当番の廃止」など、ピッチ外での改革も断行しました。これにより、選手たちは自ら考え行動する力を身につけ、精神的にも大きく成長しました。この改革が、後の黄金時代を築く決定的な要因となったことは間違いありません。
黄金時代を築いたV9の偉業
岩出体制の下、帝京大学は2009年度から2017年度にかけて、大学選手権9連覇(V9)という空前絶後の記録を打ち立てました。早稲田、明治といった伝統校を圧倒し、大学ラグビー界の勢力図を完全に塗り替えました。
この時期のチームは、圧倒的なフィジカルと緻密な戦術眼を兼ね備え、「大学生相手では勝負にならない」とまで言われるほどの強さを誇りました。トップリーグのチーム(社会人)とも互角に戦い、日本選手権で勝利を収めるなど、学生スポーツの枠を超えた存在感を示しました。
相馬朋和監督へのバトンタッチと新時代
2022年、長きにわたりチームを率いた岩出氏が退任し、元日本代表プロップでありヘッドコーチを務めていた相馬朋和氏が新監督に就任しました。偉大な先任者の後を継ぐという重圧の中で、相馬監督は帝京の伝統を守りつつ、自身の強みであるスクラム強化などに着手しました。
就任早々に大学日本一を達成するなど、その手腕はすでに証明されています。岩出イズムを継承しながらも、より実戦的で力強いラグビーを追求する相馬体制は、新たな黄金時代の幕開けを予感させています。
名将・岩出雅之氏が確立した「常勝の組織論」とは

帝京大学を常勝軍団へと変えた岩出雅之氏の手腕は、ラグビー界のみならずビジネス界からも高く評価されています。ここでは、彼がチームに植え付けた独自の哲学と組織運営の極意について、具体的に掘り下げていきます。
脱・体育会系による心理的安全性の確保
岩出氏の最大の功績の一つは、スポーツ界に根付いていた理不尽な上下関係を排除したことです。上級生が絶対的な権力を持つ構造を改め、全員が対等に意見を言い合えるフラットな組織を作り上げました。
これにより、下級生であってもプレー中の判断や戦術について自由に発言できる「心理的安全性」が確保されました。ミスを恐れずにチャレンジできる環境が、選手たちのポテンシャルを最大限に引き出し、クリエイティブなプレーを生み出す源泉となりました。
学生の自主性を育むボトムアップ型運営
監督が全てを指示するトップダウン型ではなく、学生たちが自ら目標を設定し、解決策を考えるボトムアップ型のアプローチが徹底されました。練習メニューの考案や試合の分析も、学生リーダーたちが中心となって行われます。
「やらされる練習」から「自らやる練習」へと意識が変わることで、練習の質は飛躍的に向上しました。社会に出ても通用する人間力を養うという教育的視点が、結果としてラグビーの競技力向上にも直結しているのです。
この自律的な組織文化こそが、帝京の強さの根幹です。
科学的根拠に基づいたフィジカル強化
精神論や根性論を排し、解剖学や栄養学に基づいた科学的な身体作りを推進しました。専属の栄養士による食事管理や、医療スタッフと連携した怪我の予防など、選手のコンディションを第一に考えたサポート体制を構築しました。
早朝練習の廃止や効率的な休養の導入など、当時の大学ラグビー界では異例の取り組みも行われました。その結果、帝京の選手たちは他大学を圧倒するサイズとパワーを手に入れ、コンタクトプレーで優位に立つスタイルを確立しました。
相馬朋和監督が描く「帝京ラグビー」の進化論
岩出雅之氏からバトンを受け取った相馬朋和監督は、帝京のDNAをどのように進化させようとしているのでしょうか。現役時代に世界と戦った経験を持つ新指揮官の指導方針と、チームにもたらした変化について解説します。
世界基準のスクラムとセットプレー
元日本代表のフロントローとして活躍した相馬監督の最大の武器は、スクラムへの深い造詣です。彼の指導により、帝京のスクラムは大学レベルを超越し、社会人チームすら脅かすほどの強力な武器となりました。
「スクラムで優位に立てば試合を支配できる」という信念のもと、細部の身体操作や連携を徹底的に指導しています。セットプレーの安定感は、バックス陣が安心して攻撃を仕掛けるための基盤となり、得点力の向上に大きく貢献しています。
ハードワークと基本プレーの徹底
相馬監督は、華麗なサインプレーよりも、泥臭い基本プレーの質を極めることを重視しています。タックル、ブレイクダウン、パスキャッチといった基本動作を、極限のプレッシャーの中でも正確に遂行できるかを問い続けます。
「誰でもできることを、誰もできないレベルでやる」という姿勢が、チーム全体に浸透しています。派手さはなくとも、80分間強度が落ちないタフなラグビーこそが、相馬体制における帝京ラグビーの真骨頂と言えるでしょう。
厳しさと愛情を兼ね備えたリーダーシップ
岩出前監督の「見守る」スタイルに対し、相馬監督は選手と近い距離で熱く指導するスタイルが特徴です。時には厳しく叱咤することもありますが、その裏には選手への深い愛情と期待が込められています。
選手たちも、世界を知る監督の言葉には絶対的な信頼を寄せており、チームの一体感は強固なものとなっています。伝統を尊重しつつも、自身のカラーを恐れずに打ち出すリーダーシップが、新生・帝京を牽引しています。
常勝を支える「環境」と「スタッフ力」の秘密
帝京大学ラグビー部の強さは、監督の手腕だけで語れるものではありません。選手たちが競技に専念し、成長できるための最高レベルの環境と、それを支える専門スタッフたちの存在が不可欠です。
プロフェッショナルな医療・トレーナー陣
帝京大学には、トップアスリートをサポートするための充実した医療・トレーナー体制が整っています。スポーツ医科学センターとの連携により、怪我の診断からリハビリ、復帰までがシームレスに行われます。
また、ストレングス&コンディショニングコーチ(S&C)が常駐し、ポジションや個人の特性に合わせたトレーニングプログラムを作成しています。これにより、選手たちは4年間で身体を劇的に大きくし、怪我に強い強靭な肉体を作り上げることができるのです。
人間的成長を促す寮生活とキャリア支援
全寮制を採用している帝京大学ラグビー部では、共同生活を通じて協調性や規律を学びます。しかし、それは旧来の管理型の寮ではなく、お互いを尊重し高め合うためのコミュニティとしての機能を持っています。
また、ラグビー引退後のセカンドキャリアを見据えた教育も重視されています。学業成績の管理やキャリアセミナーの開催など、社会人として通用する人材を育成するためのサポートが手厚く、多くのOBが企業で活躍しています。
全国から集まる才能とリクルーティング
「帝京でラグビーがしたい」と願う高校生が全国から集まってくるのも、強さの要因です。しかし、単に有名選手を集めるだけでなく、帝京のフィロソフィーに共感し、成長意欲の高い人材を発掘するリクルーティング戦略が機能しています。
高校時代は無名だった選手が、帝京の環境で才能を開花させ、日本代表まで上り詰めるケースも珍しくありません。才能ある原石を見極め、最高の環境で磨き上げるサイクルが確立されていることが、継続的な強さを生んでいます。
記録と数字で見る帝京大学ラグビー部の凄み

最後に、帝京大学ラグビー部が残してきた圧倒的な記録と、ライバル校との関係性、そして日本ラグビー界への貢献度について、客観的なデータや事実に基づいて解説します。
大学選手権9連覇という不滅の記録
2009年度の初優勝から2017年度まで続いた9連覇は、大学スポーツの歴史に残る偉業です。選手の入れ替わりが激しい大学スポーツにおいて、約10年間にわたり頂点に君臨し続けることは、並大抵のことではありません。
この期間、帝京大学は「勝つことが当たり前」というプレッシャーの中で戦い続けました。その重圧を跳ね除け、毎年進化を続けた精神力と組織力は、まさに伝説と呼ぶにふさわしいものです。この記録は、今後破られることが難しい金字塔です。
早稲田・明治とのライバル関係と切磋琢磨
帝京大学の成長は、早稲田大学や明治大学といった伝統校との激しいライバル関係によって加速しました。かつては挑戦者だった帝京が王者となり、今度は伝統校が帝京を倒すために強化を進めるという構図が生まれました。
この「打倒・帝京」のエネルギーが大学ラグビー全体のレベルを底上げし、結果として帝京自身もさらなる進化を迫られました。関東大学対抗戦でのこれら強豪校との激闘は、毎年多くのファンを熱狂させています。
日本代表へ輩出し続けるトッププレーヤー
帝京大学は、ラグビーワールドカップで活躍する日本代表選手を数多く輩出しています。堀江翔太選手、中村亮土選手、姫野和樹選手、松田力也選手など、近年の日本代表の主軸を担う選手たちの多くが帝京出身です。
彼らに共通するのは、高いスキルだけでなく、ハードワークを厭わない献身性とリーダーシップです。帝京大学で培われた「チームのために身体を張る」という精神は、日本代表のジャージを着ても色褪せることなく発揮されています。
まとめ:継承される「紅き旋風」のDNA
帝京大学ラグビー部の強さは、一朝一夕に作られたものではありません。黎明期の指導者たちが撒いた種を、岩出雅之氏が革新的なマネジメントで開花させ、相馬朋和氏がさらなる高みへと進化させています。
- 岩出雅之氏の功績:「脱・体育会系」と科学的強化でV9を達成。
- 相馬朋和氏の現在:スクラムと基本プレーの徹底で王座を堅持。
- 組織の強み:学生の自主性を重んじる文化と、最高水準のサポート環境。
監督が変わっても揺るがないのは、「現状に満足せず、常に進化し続ける」という深紅のDNAです。これからも帝京大学ラグビー部は、大学ラグビー界のリーダーとして、私たちに新しい景色を見せてくれることでしょう。
ぜひ、スタジアムに足を運び、歴代監督たちの情熱が息づく選手たちの熱いプレーを目撃してください。そこには、勝利以上の感動が待っています。



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