大学ラグビー界において、圧倒的な存在感を放つ帝京大学ラグビー部。前人未到の「大学選手権9連覇(V9)」という偉業を成し遂げ、その後も数々のタイトルを獲得し続ける「真紅の王者」は、いつの時代も優れたリーダーによって牽引されてきました。
2026年1月、大学選手権準決勝での惜敗により5連覇への道は途絶えましたが、その敗戦こそが次なる進化への序章であることを、私たちは歴史から学んでいます。帝京大学の強さは、単なるフィジカルや戦術だけではありません。学生自身が考え、行動する独自の組織文化と、それを体現する「キャプテンシー」にこそ真髄があるのです。
この記事では、帝京大学ラグビー部の歴代キャプテンの系譜を紐解きながら、常勝軍団を築き上げたリーダーたちの哲学と、その背後にある組織論について深掘りしていきます。
- V9黄金時代:歴史を変えた伝説のリーダーたち
- 再建と新時代:王座奪還からV4達成への道のり
- 独自の哲学:「脱体育会」が育む人間力
帝京大学ラグビー部歴代キャプテンが築いた黄金時代の軌跡
帝京大学ラグビー部の歴史は、挑戦と進化の連続です。特に2009年度からの9連覇(V9)と、一度王座を離れてからの復活劇(V10〜V13)は、それぞれの時代のキャプテンの色が色濃く反映されています。ここでは、時代を画した歴代キャプテンたちを振り返ります。
V1〜V3:歴史を変えた変革期のリーダーたち
2009年度、帝京大学は悲願の初優勝を果たしました。この「V1」を成し遂げた野田創キャプテン(FL)は、決勝で東海大学との激闘を制し、チームに「勝者のメンリティ」を植え付けた功労者です。続く2010年度の吉田光治郎キャプテン(FL)は、早稲田大学を決勝で下し、連覇の難しさを跳ね除ける強固なディフェンスラインを構築しました。
そして2011年度、森田佳寿キャプテン(SO)の代でV3を達成。森田氏は現在、帝京大学のコーチとしても活躍しており、現役時代から見せていた冷静沈着な判断力と戦術眼は、その後の帝京ラグビーの知性的な基盤となりました。この初期3連覇が、常勝軍団への礎となったのです。
V4〜V6:絶対王者の地位を確立した中期
V4を達成した2012年度の泉敬キャプテン(FL)は、強烈なタックルと背中で語るリーダーシップでチームを牽引。そして2013年度、現在も日本代表で活躍する中村亮土キャプテン(CTB)がV5へと導きました。中村キャプテンの時代は、個々の能力の高さに加え、組織としての連動性が飛躍的に向上した時期でもあります。
V6を達成した2014年度の流大キャプテン(SH)は、歴代の中でも特に「厳しさ」と「規律」を重んじたリーダーとして知られます。小さな身体で大男たちを統率し、妥協を許さない姿勢で練習からチームを鼓舞し続けました。彼のリーダーシップは、帝京の強さを「揺るぎないもの」へと昇華させました。
V7〜V9:前人未到の記録と重圧との闘い
2015年度、坂手淳史キャプテン(HO)率いるチームはV7を達成。日本代表クラスの選手が揃う中、坂手キャプテンはコミュニケーションを重視し、風通しの良い組織作りを行いました。続く2016年度は亀井亮依キャプテン(FL)がV8を達成し、記録更新への重圧の中で結果を残し続けました。
そして2017年度、堀越康介キャプテン(HO)が伝説のV9を達成。明治大学との決勝戦は僅差の勝負となりましたが、土壇場での勝負強さは、9年間積み上げてきた自信の表れでした。このV9時代は、大学ラグビーの枠を超え、社会人チームとも互角に渡り合う「最強の大学生」として君臨した時代でした。
王座奪還からV13への系譜(2021〜2024年度)
V9の後、3年間の停滞期を経て、2021年度に細木康太郎キャプテン(PR)が王座を奪還(V10)。スクラムにこだわりを持ち、「帝京のFW」の復権を印象付けました。2022年度は松山千大キャプテン(CTB)が圧倒的な攻撃力でV11へと導き、2023年度は江良颯キャプテン(HO)がリーダーシップを発揮しV12を達成しました。
直近の2024年度は、青柳龍キャプテン(LO/FL)がチームをまとめ上げ、大学選手権4連覇(V13)という新たな黄金期を築きました。2025年度(2026年1月終了)の大町佳生キャプテンの代で連覇は止まりましたが、これまでの栄光と敗北の経験は、必ずや次世代の糧となるはずです。
| 年度 | 回数 | キャプテン | ポジション | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| 2009 | 46 | 野田 創 | FL | 優勝 (V1) |
| 2011 | 48 | 森田 佳寿 | SO | 優勝 (V3) |
| 2014 | 51 | 流 大 | SH | 優勝 (V6) |
| 2017 | 54 | 堀越 康介 | HO | 優勝 (V9) |
| 2021 | 58 | 細木 康太郎 | PR | 優勝 (V10) |
| 2024 | 61 | 青柳 龍 | LO | 優勝 (V13) |
なぜ彼らは勝てるのか?帝京独自の組織哲学

帝京大学が長年にわたり大学ラグビー界の頂点に君臨できた理由は、単に有望な選手が集まるからだけではありません。「脱体育会」とも呼ばれる独自の組織運営と、学生の自主性を尊重する文化が、キャプテンシーの質を高め、チーム全体の底上げに繋がっています。
上級生が雑務を行う「脱体育会」文化
日本の大学スポーツ界には長らく「下級生が雑務を行い、上級生は指示を出す」というヒエラルキーが存在していました。しかし、岩出雅之元監督(現・スポーツ局局長)はこの常識を覆し、「上級生こそが掃除や準備などの雑務を行う」という改革を断行しました。
これにより、1年生はラグビーに集中できる環境が整うと同時に、上級生には「チームのために奉仕する」というリーダーシップの基礎が養われます。キャプテンであっても例外ではなく、トイレ掃除やグラウンド整備を率先して行う姿が、言葉以上の説得力を持ってチームをまとめる求心力となっています。
コミュニケーションが生む信頼関係
帝京大学ラグビー部では、学年の壁を越えたコミュニケーションが推奨されています。かつての強豪校に見られた理不尽な上下関係は排除され、下級生でも上級生に対して意見を言える環境が整備されています。これにより、試合中の緊迫した場面でも、学年に関係なく的確な指示や情報の共有が可能になります。
歴代のキャプテンたちは、定期的なミーティングだけでなく、寮生活の中での何気ない会話を大切にしてきました。流大選手や中村亮土選手も、自身の代だけでなく下級生の悩みを聞き出し、チーム全員が同じ方向を向けるよう腐心していました。この心理的安全性が、帝京の強さの秘密です。
学生主導のチームマネジメント
「監督の指示待ち」ではなく、「学生自身が考えて動く」スタイルも大きな特徴です。練習メニューの作成や対戦相手の分析、さらには寮の運営ルールに至るまで、学生幹部が中心となって決定します。キャプテンは監督と学生の板挟みになるのではなく、学生代表として監督と対等に議論を交わします。
相馬朋和監督体制になってもこのイズムは継承されており、キャプテンには高いマネジメント能力が求められます。ラグビーの技術だけでなく、組織運営の視点を持つことで、社会に出ても通用する人間力が磨かれます。帝京のキャプテンが卒業後もプロリーグでリーダーになることが多いのは、このためです。
歴代キャプテンが直面する重圧と役割
「勝って当たり前」という世間の目、そして偉大な先輩たちが築いてきた記録。帝京大学のキャプテンマークを巻くことは、計り知れない重圧との戦いでもあります。ここでは、その特殊な役割と求められる資質について考察します。
勝利への義務と「楽しむ」ことのバランス
連覇が続く中で、キャプテンは常に「自分の代で記録を途絶えさせるわけにはいかない」というプレッシャーに晒されます。特にV9時代の後半や、近年のV13達成時のキャプテンたちは、勝利への強迫観念と戦いながらも、ラグビーを楽しむ心を忘れないようチームを導く必要がありました。
2024年度の青柳龍キャプテンも、V4への期待を背負いながら、チームのスローガンを体現するためにハードワークを続けました。厳しい練習の中でも、キャプテンが前向きな姿勢を見せることで、チーム全体にポジティブな空気が生まれます。精神的なタフネスは、帝京キャプテンの必須条件と言えるでしょう。
多様な個性を束ねる統率力
帝京大学には全国の強豪校からトップレベルの選手が集まり、さらに留学生も在籍しています。バックグラウンドや個性の異なる選手たちを一つのチームとしてまとめ上げるには、高いコミュニケーション能力と公平性が求められます。
特定の選手だけを優遇するのではなく、BチームやCチームの選手にも目を配り、部員全員が「チームの一員である」という自覚を持てるように働きかけます。試合に出られない4年生の想いを汲み取り、それをレギュラーメンバーに伝えることも、キャプテンの重要な役割の一つです。
監督との「共創」関係
帝京大学のキャプテンは、監督の「イエスマン」ではありません。岩出元監督や相馬監督は、キャプテンに対してあえて答えを教えず、自分たちで答えを導き出すよう促す指導スタイルをとっています。
そのため、キャプテンは監督の意図を汲み取りつつも、現場の感覚として「今はこうすべきだ」という意見があれば、堂々と主張します。この健全な緊張感と信頼関係が、試合中の予期せぬトラブルにも動じない対応力を生み出しています。監督とキャプテンの「共創」こそが、帝京ラグビーの進化の源泉です。
帝京イズムはリーグワン・日本代表へ

帝京大学でキャプテンを務めた選手の多くは、卒業後もトップリーグ(現リーグワン)や日本代表でリーダーシップを発揮しています。大学時代の経験が、どのようにその後のキャリアに活かされているのかを見ていきましょう。
日本代表を支える帝京出身リーダー
2019年、2023年のワールドカップで日本代表の中核を担った流大選手(東京サントリーサンゴリアス)、中村亮土選手(同)、坂手淳史選手(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、姫野和樹選手(トヨタヴェルブリッツ)などは、いずれも帝京大学出身です。特に姫野選手は、大学時代は怪我に苦しみキャプテンではありませんでしたが、帝京で培ったフォア・ザ・チームの精神をプロで開花させました。
彼らに共通するのは、言語化能力の高さと、どんな状況でもブレないメンタリティです。大学時代に「自ら考え、行動する」訓練を徹底的に受けてきた彼らは、世界レベルの猛スピードの試合展開の中でも、瞬時に的確な判断を下すことができます。
プロの世界でも通用する「準備力」
帝京大学で叩き込まれるもう一つの要素が「準備力」です。対戦相手の分析、身体のケア、メンタルの調整など、試合までのプロセスをどれだけ緻密に行えるかが勝敗を分けると学んでいます。これはプロの世界でも全く同じであり、むしろより高いレベルで求められる能力です。
2025年シーズン以降も、細木康太郎選手や松山千大選手など、近年の帝京キャプテンたちがリーグワンで存在感を増しています。彼らが各チームでリーダーシップを発揮することで、日本ラグビー全体のレベルアップにも貢献しています。帝京のキャプテンシーは、大学ラグビーの枠を超えた財産となっています。
2026年以降の帝京大学ラグビー部への期待
2026年1月、帝京大学は大学選手権準決勝で敗れ、連覇は4でストップしました。しかし、かつてV9が途絶えた後、数年の時を経て再び黄金時代を築いたように、この敗北は新たな進化のきっかけとなるでしょう。2025年度キャプテンの大町佳生選手からバトンを受け取る次世代のリーダーには、王座奪還という明確な目標があります。
「負けを知る世代」が最上級生となる2026年度シーズン。彼らがどのようなチームを作り、どのようなリーダーシップを見せるのか。真紅のジャージが再び大学ラグビーの頂点に立つその日まで、帝京大学の挑戦から目が離せません。
まとめ
帝京大学ラグビー部の歴代キャプテンたちは、単に試合に勝つだけでなく、組織文化を醸成し、次世代へとバトンを繋ぐ重要な役割を果たしてきました。V9時代の伝説的なリーダーから、近年のV13を支えたキャプテンまで、彼らの姿勢には共通して「他者への献身」と「自律した精神」が流れています。
2026年、連覇は途切れましたが、それは「常勝」という重荷を一度下ろし、純粋なチャレンジャーとして生まれ変わる好機でもあります。私たちファンは、勝利の記録だけでなく、学生たちが苦悩しながら成長していくそのプロセスにこそ、心を打たれるのです。
今後も帝京大学ラグビー部は、新しいキャプテンを中心に、私たちに新しいラグビーの可能性を見せてくれることでしょう。ぜひ、スタジアムで、あるいは画面越しに、彼らの熱いリーダーシップと、そこから生まれるドラマに注目してください。



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