相手ゴールに向かって確かな前進を重ねられると、アタックの選択肢は増え、意思決定もぶれにくくなります。けれども「ゲイン」をどう測り、どこから改善すれば良いのかで悩んでいませんか?
本稿はゲインの定義と主要指標、攻守の設計、個人スキル、練習ドリル、試合後のレビューの順に整理し、今日から実装できる行動まで落とし込みます。読み終わる頃には、あなたのチームで何を変えるかが具体化します。
- 基準を数値化して共有する(誰が見ても同じ評価)。
- ゲイン前提の配置と役割で迷いを減らす。
- 1人のスキルと3人の連携で突破率を底上げ。
- 練習と試合の指標を往復させて継続改善。
ラグビーのゲインとは何かをそろえる|意味と測定指標を使い分ける
「ゲイン」は単にメートルの和ではなく、攻撃の主導権を握る能力そのものです。まずは言葉の意味と測定の枠組みをそろえ、チーム全員が同じ景色を見られる状態を作りましょう。
ゲインの基本は、基準線を決めて「越えたか否か」を一貫して扱うことです。基準線はセット開始位置や直前の接点位置とし、キャリーやキック、パスで相手陣に食い込めたかを評価します。
用語の整理|ゲイン・ゲインライン・ゲイン成功
ゲインは前進の総称で、ゲインラインは評価の物差しになる仮想の横線です。ゲイン成功はその線を越えた回数や割合を示し、相手防御の後退やギャップ創出に直接つながります。
チーム内では「越えた」「越えていない」を曖昧にせず、ビデオで線を引いた基準を共有します。主観を排して数値で語る準備を整えるのが出発点です。
主要KPIの例|攻撃と接点のスピードを両輪にする
ゲイン成功率(%)、キャリー平均距離(m/回)、接触後メートル、ブレイク数、ラック速度は互いに影響します。片方だけを上げても全体最適に届きません。
ゲイン成功を底上げしつつ、接点での球出しを速く保つ構図を描きましょう。速い球は守備の再編成を遅らせ、次のキャリーの成功確率を押し上げます。
数値の目安|相手と自分の差分で見る
絶対値ではなく相対差で評価すると現実的に改善点が見えます。例えばゲイン成功が相手より+6%なら、フェーズごとに2〜3本の優位が積み上がる計算です。
ラック速度も同様に相手比で評価します。自チームが0〜3秒帯の割合で上回っていれば、攻撃テンポの主導権を握れていると解釈できます。
計測上の注意|キックとカウンターの扱い
ハイパントやタッチキックは基準線の設定が変わります。キックは獲得陣地、カウンターは捕球位置を起点に、同じルールで判定します。
再現性のない例外計測を増やさないように定義をドキュメント化しましょう。練習レビューと試合レビューで同じ定義を使うのが肝要です。
| 指標 | 定義の要点 | ねらい | 基準の置き方 | 落とし穴 |
|---|---|---|---|---|
| ゲイン成功率 | 基準線を越えたキャリー割合 | 攻撃の主導権を握る | 接点の直前位置 | 判定の恣意性 |
| 平均メートル | キャリー距離/回 | 一回の質を測る | 開始位置からの直線距離 | 横移動の過大評価 |
| 接触後メートル | 初接触以降の前進 | 衝突後の継続力 | 初接触点から計測 | 二人目の押し込み混同 |
| ラック速度 | 接点成立〜球出し時間 | 防御再編より先行 | 0〜3/3〜6/6秒超分類 | 観測者差 |
| ラインブレイク | 防御を抜けた回数 | 決定機の創出 | 最終防御線突破 | 半突破の扱い |
表のように指標は役割が異なり、単独で万能ではありません。相互関係を理解し、ゲームプランに沿って重みづけを変えると評価が立体的になります。
次章では、ゲインを前提にしたアタックの設計を分解します。役割と位置取りを整え、迷いを減らす配置で成功確率を底上げしていきましょう。
ゲインを生むアタック設計|配置・役割・選択を三位一体で整える

フェーズ開始時に誰がどこに立つかがゲインの成否を左右します。セットアップの質が高いと、同じ戦術でも成功率は大きく変わります。
ここでは初期配置、一次二次の選択、幅と深さの調整、戻りの速さを連動させて、ゲインを確率で取りにいく考え方を具体化します。
一次は「確率の高い前進」を最優先にする
最初の一手は強みの出るキャリアーに寄せ、サポート二枚を事前配置します。衝突点を限定し、越えた瞬間に次の一手を打てるよう設計します。
例えばSOの前にショートとアウトの二択を置き、守備の肩向き次第で即断します。決め打ちではなく、守備の反応に合わせた確率思考を徹底します。
二次は「速い球」か「大外の幅」かを数で選ぶ
一次で越えたら球出し速度を最大化し、相手の再編前に同サイドを叩きます。越えられなければ幅を使って守備を横に揺らします。
この分岐はラック速度と守備枚数で決めます。数的同数で球が速いなら継続、数的不利なら幅やキックで圧力を散らします。
ラインの深さを相手ラインスピードに合わせて可変にする
相手が速く上がるなら深く立って時間を確保し、遅いなら浅く立って前進距離を伸ばします。全員が同じ基準で深さを変えるのが鍵です。
深さの合図はシンプルに統一し、誰もが一拍で反応できるようにします。合図の遅れはゲインの確率を一気に下げます。
再加速のルール|接点直後の最短経路を全員で共有する
キャリアー、二人目、三人目の入る角度を固定し、ボール奪取よりも球の生存と前進を優先します。再加速の角度が一致すると、同じ人数でも押し戻せます。
「二歩前に出てから接点へ」「肩と腰を平行に保つ」など、体の使い方をキーワード化します。合言葉は短く、誰でも再現できるようにします。
キックもゲインの手段として織り込む
コンテスト可能なハイパントやグラバーは、守備の背後にスペースが出た瞬間に選びます。カウンターを受けても浮き玉で時間を稼げます。
タッチでの陣地獲得は圧縮された守備に有効です。モール起点の一次で高確率のゲインを作るまで、ゲームの重心を押し上げます。
- 一次:強みのキャリアーに寄せて高確率の前進。
- 二次:速い球なら同サイド継続、遅ければ幅。
- 深さ:相手ラインスピードで可変設定。
- 再加速:二人目三人目の角度を固定。
- キック:背後スペースとタッチで圧力分散。
- 合図:短く統一し一拍で意思決定。
- 迷い:数と速度で分岐を自動化。
アタックの骨格が整うと、接点周りの個人スキルが同じでも成果が揺れにくくなります。次章は個人の「ゲイン技術」を磨き、骨格に実効性を与えます。
一人の突破ではなく、三人の連動で越える前提に切り替えると、プレッシャーが個人からチームに分散します。持続的にゲインを積む土台が固まります。
ゲインを伸ばす個人スキル|キャリー・接触・継続の三段構えで強くなる
あなたや仲間が同じ体格でも、接触の入り方とその後の一歩でゲインは大きく変わります。動きの順番を決めて練習すると再現性が上がります。
ここではキャリー前の準備、接触時の姿勢、接触後の継続、オフロード、キックの併用までを段階化して解説します。
キャリー前|視線と歩幅で守備を固定する
接触の直前で視線を外側に置き、守備の肩向きを固めます。最後の二歩は歩幅を詰め、重心を下げて初接触の衝撃を吸収します。
ボールは胸の高い位置に固定し、二人目が触れやすい持ち方にします。腕だけで抱えず体幹で挟む意識を共有します。
接触時|腰の向きと足の連動で一歩を伸ばす
腰と肩を平行に保ち、足は接触方向へ踏み続けます。真横の力はゲインに換わらないため、斜め45度の出口を作る意識が有効です。
初接触の瞬間に膝を軽く前へ突き、相手の足を止めます。そこからの一歩が接触後メートルの差を生みます。
接触後|二人目三人目の押し込みを引き出す姿勢
胸をやや高く保ち、ボールの面を味方側に向けます。二人目が「面」を押せると押し込みが直線になり、メートルが積み上がります。
三人目はキャリアーの腰下に入り、前へ押しながら腰を切ってボールを見せます。球出しの角度が整い、次の一手が速くなります。
オフロード|欲張らずに条件が揃った時だけ選ぶ
腕の解放と味方の肩の位置がそろい、相手の手が下がった瞬間のみ通します。無理なオフロードはターンオーバーの遠因です。
一度止まったら速い球でリセットし、次のキャリーでゲインを取り返します。オフロードは成功確率が高い時のみに限定します。
キック|前進と圧力分散のバランスを取る
高い球は空中で時間を作り、追走でゲインを狙えます。グラバーは背後の空間へ足元のミスを引き出します。
ただし乱発は自陣での守備時間を増やします。キャリー二回で越えないと判断した時の第三の選択として位置づけます。
- 視線で守備を固定してから接触へ。
- 最後の二歩で重心を落として衝撃吸収。
- 接触は斜め45度の出口を確保。
- 二人目は「面」を押し、三人目は腰下へ。
- オフロードは条件が揃った時だけ。
- キックは第三の選択で圧力分散。
- 球出しは常に次の一手から逆算。
個人スキルが揃っても、守備が先に主導権を取れば前進は止まります。次章は守備側の原則を理解し、ゲインを守る観点から逆算します。
攻守の目線を往復させると、相手の意図が読めるようになり、味方の準備時間を確保できます。結果としてゲインの確率が高まります。
ゲインを守るディフェンス理解|ラインスピードとタックルで主導権を奪い返す

相手がゲインを積もうとする時、守備はどこでブレーキをかけてくるでしょうか。相手の狙いを知っておくと、攻撃側の対処が具体になります。
ここではラインスピード、タックル種別、二人目の到着、ジャッカルの脅威管理、ペナルティ回避を整理します。
ラインスピード|前進の余白を消される前に打つ
守備が速く上がると、キャリアーの歩幅調整が間に合わなくなります。深さの調整と内ショートの即時化で対抗します。
外へ逃げるばかりでは横移動が増え、実質のゲインが減ります。内側に一度刺してから外で仕留める二段構えを徹底します。
タックル種別|脚を止めるのか上体を固めるのか
低い一撃で膝を止められると接触後メートルが伸びません。初接触で片脚でも前に運べれば、次の押し込みが生きます。
抱え込み系のタックルには腕の解放角度を作っておき、オフロードの条件が整う瞬間を待ちます。無理は禁物ですが選択肢として用意します。
ジャッカルの脅威管理|二人目の「先行権」を取り続ける
接点で頭を先に入れられると、球の生存自体が脅かされます。二人目が一歩先行するための走路と合図を明確にします。
到着が遅れたら潔く三人でリセットし、速い球で守備の手を離させます。ペナルティを避ける判断が長い時間でのゲインを守ります。
- ラインスピードには深さ可変と内ショートで対抗。
- 低い一撃には接触後の一歩を死守。
- 抱え込みには腕の解放角度を準備。
- 二人目は走路と合図で先行権を確保。
- 遅れたら三人でリセットして速い球。
- 反則回避は長期的なゲインの防衛策。
- 外へ逃げる一辺倒を避け二段構え。
守備の理屈を掴むと、攻撃は焦らず確率の高い選択を続けられます。次章では、ラック速度とゲインの両立をドリルで身につけましょう。
練習が指標と結びつくと、成果は自然に数値へ反映されます。日々のメニューが試合のゲインに直結します。
ゲインとラック速度を両立させる練習ドリル|速さと強さを同時に上げる
速い球と前進の両立は矛盾に見えますが、順番と形を決めれば実現します。ドリルを通じて二人目三人目の役割を自動化しましょう。
以下は現場への落とし込みを意識した、所要時間と狙いが明確なドリル群です。計測ルールまで一体化させて実施します。
三人キャリー連動ドリル(8分×2セット)
キャリアー、二人目、三人目が決めた角度で入り、接触後メートルの最大化を狙います。二人目は胸の面を押し、三人目は腰下へ回り込みます。
各レップでゲイン判定とラック速度を同時に読み上げます。二つの数値が両立した時にだけ成功扱いにします。
同サイド継続テンポドリル(6分×3セット)
一次で越えた直後の同サイド連続を想定し、三本連続のテンポを固定します。呼吸の合図と配置の走路を短く統一します。
0〜3秒内の球出しで次に触った人数を記録します。素早い再配置ができるほど、三本目のゲイン成功が安定します。
幅とキックの分岐ドリル(10分×1セット)
越えられなかった時の二択を自動化します。幅に出すか、背後へ蹴るかをラック速度と守備枚数で即断します。
キック後の追走と捕球体制まで含めて一本と数えます。分岐の遅れが最もゲインを損なうので、意思決定の時間を削ります。
| ドリル名 | 主指標 | 副指標 | 所要時間 | 成功基準 |
|---|---|---|---|---|
| 三人連動 | 接触後メートル | ゲイン成功 | 8分×2 | 両指標が基準超 |
| 同サイド継続 | 0〜3秒割合 | 三本目のゲイン | 6分×3 | 割合60%超 |
| 幅/キック分岐 | 意思決定時間 | ターンオーバー | 10分×1 | 決断1秒以内 |
| 深さ可変 | 初速の前進 | ノックオン | 6分×2 | 初速で1m超 |
| 再加速角度 | 押し込み距離 | 反則数 | 8分×1 | 1.5m超 |
練習は数値で締め、当日のベスト動画を1クリップだけ共有します。言葉よりも映像の方がチームの記憶に残ります。
次章は、試合中の意思決定ルールを簡潔にし、誰でも同じ判断にたどり着ける形へ落とし込みます。迷いを減らすことがゲインの近道です。
ゲインを軸にした試合中の意思決定|誰が見ても同じ結論に至る基準を持つ
試合中に複雑な条件分岐は回りません。二つか三つの観察で自動的に選択が決まるよう、基準をあらかじめ作っておきます。
守備枚数、ラック速度、フィールド位置の三要素で分岐を作り、全員が同じ結論に至る仕組みを提案します。
観察1|接点直上の守備枚数で縦か横かを即断
同数以下なら縦に二本、数的不利なら幅かキックを選びます。観察はボールキャリアーではなく、SOと二人目が共同で行います。
役割を分担すると視野が広がり、判断の遅延が減ります。結果的にラック速度が上がり、ゲインの確率も上がります。
観察2|ラック速度で継続か転換かを決める
0〜3秒で出るなら継続、3〜6秒なら転換、6秒超ならリセットと覚えます。言葉ではなく数で決めれば迷いません。
転換時は内ショートか背後キックを第一候補にします。守備が横に広がる前に、最短距離で前進を取り戻します。
観察3|フィールド位置でリスク許容を変える
自陣深い位置ではタッチで陣地を確保し、敵陣深い位置ではオフロードの許容をわずかに広げます。位置でリスクを調整します。
全員が同じ許容範囲を知っていれば、無理なチャレンジは減ります。結果的にターンオーバーの連鎖を止められます。
- 守備枚数:同数以下=縦、数的不利=幅/キック。
- ラック速度:0〜3秒=継続、3〜6秒=転換。
- 位置:自陣=陣地、敵陣=チャレンジ許容。
- 役割:SOと二人目が共同で観察。
- 言葉より数で即断して迷いを削減。
- 分岐の共有でテンポを全員で作る。
- 基準は紙1枚にして常時携行。
最後に、試合後に何を見返し、次の週へどう反映するかを定義します。レビューの質が翌週のゲインを決めます。
映像と数値を一体化した簡潔な報告様式を使い、現場の改善速度を上げましょう。継続の仕組みが成果を安定させます。
ゲインを継続的に伸ばすレビュー様式|映像1本と数値5項目で回す
レビューは長さではなく粒度が重要です。毎回同じ様式で見返せば、変化が可視化され、改善への合意が早くなります。
以下のテンプレートを使い、映像と数値を合わせて10分以内で回す運用を提案します。足りない点は次週の練習に編み込みます。
映像1本|最も再現したいシーンを選ぶ
越えたキャリー、速い球、次の一手が連続した一例を抜き出します。全員が再現のポイントを一言で言えるかを確認します。
良かった理由を体の使い方と配置の両面で言語化します。映像は「できた」証拠であり、次の週のモデルになります。
数値5項目|相手との差分で語る
ゲイン成功率、0〜3秒割合、接触後メートル、ラインブレイク、反則数を相手比で並べます。差分で語ると現実的な議論になります。
差分が小さい項目は維持とし、大きい項目に練習の時間を割きます。重点の選択がぶれなければ、成果は積み上がります。
次週の一手|練習メニューと試合の分岐に落とす
数値の弱点をドリルへ変換し、当週の意思決定分岐も微修正します。練習と試合の往復で、小さな改善を高速に回します。
メニューは総量を増やすのではなく、集中の密度を高めます。時間は変えず、狙いの明確さで成果を上げます。
| レビュー項目 | 見る理由 | 次週への翻訳 | 担当 | 所要 |
|---|---|---|---|---|
| ゲイン成功差 | 主導権の度合い | 一次の配置修正 | BKコーチ | 2分 |
| 0〜3秒割合差 | テンポの優位 | 二人目走路改善 | FWコーチ | 2分 |
| 接触後メートル差 | 衝突後の継続 | 三人目の角度 | FWコーチ | 2分 |
| ラインブレイク差 | 決定機の数 | 幅/キック分岐 | 分析担当 | 2分 |
| 反則数差 | 自滅の抑制 | 接点の姿勢 | 主将 | 2分 |
様式を固定すれば、選手の発言も具体になります。誰もが同じ言葉で議論できると、修正が一気に早まります。
最後に要点をまとめ、次の一週間で取り組む優先順位をそろえましょう。小さな前進の積み重ねが大きなゲインになります。
まとめ
ゲインは前進の合計ではなく主導権の指標です。基準と測定をそろえ、配置と連動で確率を上げ、個人スキルとドリルで再現性を高めましょう。
レビューは映像1本と数値5項目で短く回し、翌週の行動へ直結させます。まずは「越えたか」を全員で同じ物差しにするところから始めてみませんか?



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