大学ラグビー界において、圧倒的なフィジカルと組織力で「王者」として君臨し続ける帝京大学。その強さの根幹には、常にチームを鼓舞し、先頭に立って体を張り続けるキャプテンたちの存在があります。
前人未到の9連覇(V9)を達成した黄金期、連覇が途切れてからの雌伏の時、そして王座奪還から再び黄金時代を築き上げようとする現在。いつの時代も、深紅のジャージの重圧を背負い、部員100名以上を束ねてきた主将たちのリーダーシップは、多くのラグビーファンを魅了してやみません。
この記事では、帝京大学ラグビー部の歴代キャプテンに焦点を当て、彼らがどのようにチームを率い、どのような歴史を刻んできたのかを紐解きます。過去の名将から最新の2025-2026年度体制まで、その系譜を辿ることで、帝京の強さの神髄が見えてくるはずです。
| 年代 | 主将(ポジション) | 戦績・備考 |
|---|---|---|
| 2021年度 | 細木 康太郎 (PR) | 大学選手権 優勝 (V10) |
| 2022年度 | 松山 千大 (CTB) | 大学選手権 優勝 (V11) |
| 2023年度 | 江良 颯 (HO) | 大学選手権 優勝 (V12) |
| 2024年度 | 青木 恵斗 (FL) | 大学選手権 優勝 (V13) |
| 2025年度 | 大町 佳生 (CTB/SO) | 大学選手権 決勝進出 |
「帝京大学ラグビー部」の歴史を築いた歴代キャプテン・主将たち
帝京大学ラグビー部における「キャプテン」という役割は、単なるチームの代表者ではありません。それは監督の哲学をグラウンドで体現し、多様な背景を持つ部員たちの心を一つにする「精神的支柱」です。
V9時代の幕開けと絶対的な規律
2009年度、帝京大学が悲願の初優勝を遂げた時の主将は野口真寛でした。彼のリーダーシップの下、チームは対抗戦での苦戦を乗り越え、大学選手権決勝で東海大学を下し、歴史の扉を開きました。この初優勝こそが、後に続く「常勝軍団」の原点であり、野口主将が植え付けた「最後まで諦めない姿勢」は、その後の帝京フィロソフィーの基礎となりました。当時のチームは、個々の能力もさることながら、勝利への執念と規律の高さにおいて他大学を圧倒していました。
伝統を受け継ぎ進化させた中興の祖たち
V9の中盤、チームを率いた森田佳寿や泉敬といったキャプテンたちは、単に「勝つこと」だけでなく「勝ち続けること」の難しさと向き合いました。追われる立場としてのプレッシャーの中で、彼らは「脱・体育会系」を掲げる岩出雅之監督の方針を深く理解し、上級生が下級生の雑用を行うといった独自の文化を定着させました。この時期のリーダーたちが築いた風通しの良い組織文化こそが、長期政権を可能にした最大の要因と言えるでしょう。
世界基準の視座を持ったリーダーたち
流大や坂手淳史といった後の日本代表キャプテンクラスの選手たちが主将を務めた時期、帝京大学の視線はすでに「大学日本一」の先、「打倒トップリーグ」へと向いていました。彼らは学生レベルの枠に留まらず、社会人チームとの試合でも互角以上に渡り合うフィジカルと戦術眼をチームに浸透させました。練習から妥協を許さない彼らの厳格な姿勢は、チーム全体のスタンダードを劇的に引き上げ、日本ラグビー界全体のレベルアップにも貢献しました。
苦難の時期を支えた主将の矜持
9連覇の後、チームは数年間優勝から遠ざかる時期を経験しました。秋山大地、本郷泰司、松本健留といった主将たちは、勝てない時期の苦しみの中で、もがきながらもチームの再建に尽力しました。「帝京は終わった」という外野の声に抗い、伝統を守りながら新たな強さを模索し続けた彼らの泥臭い努力があったからこそ、後のV字回復が可能になったのです。彼らの代が流した悔し涙は、後輩たちの血肉となり、再び王座へ返り咲くための強固な土台となりました。
新時代の幕開けと相馬体制への移行
岩出監督から相馬朋和監督へとバトンが渡される過渡期において、キャプテンの役割はさらに重要性を増しました。新監督の目指すラグビーを理解しつつ、これまでの良さを失わないようにバランスを取る難しい舵取りが求められたのです。この時期の主将たちは、変化を恐れず、むしろ進化のチャンスと捉えてチームを牽引しました。監督交代という大きな変化の中でも揺るがない「帝京魂」を示し続けたことは、組織としての成熟度を証明しています。
覇権奪還から黄金期へ|細木康太郎から大町佳生へのバトン

一度手放した王座を取り戻し、再び連覇街道を突き進む近年の帝京大学。その中心には、強烈な個性とリーダーシップを持った主将たちの存在がありました。
細木康太郎:王座奪還の「闘将」
3大会ぶりの優勝(V10)を果たした2021年度、チームを率いたのはプロップの細木康太郎でした。彼のリーダーシップは言葉よりも背中で語るスタイルであり、スクラム最前列で体を張り続ける姿はチーム全員に勇気を与えました。彼は「本気で日本一を取りに行く」という気概を全部員に求め、練習から一切の妥協を許さない厳しさを持っていました。その鬼気迫る姿勢が、優等生になりかけていたチームに闘争心を注入し、再び勝利への渇望を呼び覚ましたのです。
松山千大:静かなる闘志と知性
細木組の翌年、V11を達成した松山千大は、冷静な判断力と激しいタックルを兼ね備えたキャプテンでした。彼は個々の能力が高い選手たちを巧みにまとめ上げ、風通しの良いチーム作りを推進しました。特に、試合中の苦しい時間帯における彼の落ち着いた声かけは、チームにパニックを起こさせず、常に的確な判断を促す要因となりました。派手さよりも実直さを重んじる彼の人間性は、相馬監督の信頼も厚く、盤石の強さを誇るチームを完成させました。
青木恵斗:圧倒的な個と献身性
2024年度、大学選手権4連覇(V13)の偉業を成し遂げた青木恵斗。187cm、110kgの恵まれた体躯を持つ彼は、プレーヤーとしても超大学級の実力を持ちながら、誰よりもチームのために身体を張り続けました。「自分が一番きついことをやる」という彼の信念は、ブレイクダウンやディフェンスの局面で遺憾なく発揮されました。スター選手でありながら奢ることなく、泥臭いプレーを厭わないその姿勢は、まさに「帝京のキャプテン」にふさわしいものでした。
前人未到V9の立役者たち|流大・坂手淳史・堀越康介の統率力
帝京大学の黄金時代を象徴するV9時代。その中心には、後に日本代表としても活躍する伝説的なキャプテンたちがいました。彼らのリーダーシップは、今なお語り草となっています。
流大:小さな巨人が見せた「嫌われる勇気」
V6を達成した流大(現・東京サントリーサンゴリアス)は、身長166cmと小柄ながら、誰よりも大きな存在感を放っていました。彼は「チームが勝つためなら嫌われてもいい」と公言し、私生活から練習に至るまで、徹底的な規律をチームに求めました。同期や後輩に対しても厳しい要求を突きつけましたが、それは彼自身が誰よりも努力しているからこそ説得力を持つものでした。彼の妥協なき姿勢が、帝京大学に「隙のない強さ」を植え付けたのです。
坂手淳史:フォワードを束ねる絶対的信頼
V7のキャプテン、坂手淳史(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)は、冷静沈着な判断力と包容力でチームをまとめ上げました。セットプレーの要であるフッカーとして、FW陣を強力に統率し、相手を粉砕するスクラムとモールを武器に戦いました。彼は言葉で引っ張るだけでなく、周囲の意見をよく聞き、選手一人ひとりの自律を促すマネジメント能力に長けていました。彼の時代、帝京のFWは「重戦車」と恐れられ、その強さは大学レベルを超越していました。
堀越康介:V9達成の重圧に打ち勝つ精神力
前人未到の9連覇がかかった2017年度、主将を務めたのは堀越康介(現・東京サントリーサンゴリアス)でした。偉大な先輩たちが築いてきた記録を途絶えさせてはならないという極限のプレッシャーの中、彼は常に笑顔を絶やさず、ポジティブな言葉でチームを鼓舞し続けました。決勝戦の明治大学戦、わずか1点差での勝利は、彼の「勝ち切る」という強い意志がチーム全体に乗り移った結果でした。苦しい時こそ前を向く、そのメンタリティは真のリーダーの証です。
監督が求める主将像|岩出雅之から相馬朋和へ受け継がれる哲学
帝京大学のキャプテン選びには、監督の深い洞察と哲学が反映されています。単にラグビーが上手いだけでは、この重責を担うことはできません。
岩出雅之が築いた「脱・体育会系」リーダー
長年チームを率いた岩出雅之名誉監督は、旧来の理不尽な上下関係を排除し、上級生が模範を示す「ボトムアップ型」の組織を作り上げました。彼がキャプテンに求めたのは、権力で人を動かすのではなく、人間的な魅力と正しい振る舞いで周囲を納得させる力です。掃除や整理整頓といった日常の些細な行動を大切にし、社会に出ても通用する人間性を備えた者こそが、キャプテンに選ばれてきました。この哲学は、帝京の選手が卒業後も各界で活躍する理由の一つです。
相馬朋和が求める「闘う集団」の先頭
岩出監督の教えを受け継ぎつつ、よりフィジカルでダイレクトなラグビーを追求する相馬朋和監督。彼がキャプテンに期待するのは、ピッチ上で最も激しく体をぶつけ、チームの闘争本能に火をつける役割です。もちろん規律や人間性は前提としつつ、苦しい局面で「俺についてこい」と言える圧倒的なエネルギーと、戦術を遂行する冷静な頭脳の両立を求めています。近年のキャプテンたちが皆、プレーで違いを見せられる選手であることは偶然ではありません。
「主将」と「リーダー陣」の集団指導体制
帝京大学の特徴として、キャプテン一人に全てを背負わせるのではなく、副将やFWリーダー、BKリーダーを含めた「リーダー陣」でチームを運営するスタイルが挙げられます。キャプテンは最終決定者ですが、各セクションのリーダーが責任を持ってユニットを強化し、寮生活では寮長が生活面をサポートします。この分業制と連携により、巨大な組織が隅々まで統制され、キャプテンはプレーとチーム全体の士気向上に集中することができるのです。
2026年度の新リーダーと未来|次なる常勝を担うキーマン

2025年度シーズンを戦い抜いた大町佳生主将たちからバトンを受け取り、2026年度の帝京大学ラグビー部を牽引するのは誰になるのでしょうか。次なる黄金期を確固たるものにするための鍵を探ります。
次期キャプテンに求められる資質
2026年度の新キャプテンには、「連覇の維持」と「新陳代謝」の両立という難しい課題が課せられます。他大学の包囲網が厳しさを増す中、現状維持は後退を意味します。そのため、これまでの成功体験に安住せず、新しい戦術やトレーニングを貪欲に取り入れ、チームに新しい風を吹き込める柔軟性が求められるでしょう。また、下級生に有望な選手が多い現在のチーム構成において、彼らの才能を引き出し、融合させる「プロデューサー」としての手腕も必要不可欠です。
注目される新4年生・リーダー候補たち
2026年度の最上級生となる世代(現3年生)には、高校時代から名を馳せたタレントが揃っています。中でもリーダーシップを発揮しそうなのが、副将経験者や各ポジションの核となる選手たちです。例えば、強靭なフィジカルでFWを牽引する選手や、ゲームメイクに長けたBKの司令塔などが候補に挙がります。誰がキャプテンに指名されるにせよ、その選手は「帝京の誇り」を胸に、歴代主将たちと同じく、全身全霊でチームを率いていくことでしょう。
帝京大学ラグビー部の未来図
大学ラグビーの枠を超え、世界に通用する選手の育成を目指す帝京大学。歴代キャプテンたちが築き上げてきた「謙虚さ」と「あくなき向上心」という文化がある限り、その強さが揺らぐことはないでしょう。2026年度も、そしてその先も、深紅のジャージを纏ったキャプテンが大学選手権の優勝カップを掲げる姿が見られるのか。新たな歴史の1ページを刻む若きリーダーたちの挑戦から、今後も目が離せません。
まとめ
帝京大学ラグビー部の強さは、卓越したフィジカルや戦術だけでなく、その歴史を紡いできた歴代キャプテンたちの「人間力」によって支えられています。野口真寛から始まった常勝の歴史は、流大や坂手淳史らによって黄金期を迎え、一度の挫折を経て、細木康太郎、松山千大、青木恵斗、そして大町佳生へと、確かに受け継がれてきました。
彼らに共通するのは、勝利への執念と、仲間を信じ抜く強い心、そして自らを厳しく律する姿勢です。岩出雅之監督から相馬朋和監督へと体制が変わっても、この根底にある精神は揺らぐことがありません。キャプテンという重責を担った者たちの背中を見て、後輩たちは育ち、また新たなリーダーが生まれていく。この循環こそが、帝京大学が王者であり続ける最大の理由です。
2026年度、新たなキャプテンの下で帝京大学はどのような進化を見せるのでしょうか。歴代主将たちの系譜を知ることで、これからの試合観戦がより深く、熱いものになるはずです。ぜひスタジアムで、深紅のリーダーたちの魂の叫びを感じてください。



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