「低く、激しく、前に出る。」
天理ラグビーの魂を体現する一人の若武者が、いま日本の大学ラグビー界で大きな注目を集めています。彼の名は太安善明(たやす よしあき)。天理高校時代からその卓越したキャプテンシーでチームを牽引し、天理大学に進学後も1年時から黒衣のジャージを身にまとい、最前線で体を張り続けてきました。
身長176cmと決して大柄ではない彼が、なぜこれほどまでに評価され、U20日本代表の主将まで任されるに至ったのでしょうか。そこには、単なる身体能力だけでは語れない、ラグビーに対する深い知性と情熱、そして飽くなき向上心があります。
この記事では、太安選手のこれまでの歩みと、HO(フッカー)へのポジション転向という新たな挑戦、そして将来の日本代表入りへの期待について、徹底的に深掘りしていきます。
- 天理高校時代からの圧倒的なリーダーシップの源泉
- U20日本代表主将として世界と戦った経験と実績
- FLからHOへ。ポジション転向に秘められた意図と進化
- タックルとジャッカル、勝利を呼び込むプレースタイルの秘密
- 今後の進路と2026年シーズンに向けた最新の展望
天理大学ラグビー部 太安 善明のプロフィールと経歴
まずは、太安善明選手の基本的なプロフィールと、これまでの輝かしい経歴について詳しく見ていきましょう。彼の歩んできた道のりは、まさに「努力」と「リーダーシップ」の塊です。
基本プロフィールと身体データ
太安善明選手は、2004年4月2日生まれの大阪府出身です。身長176cm、体重は大学入学当初の92kgから現在は97kg前後まで増量し、フィジカルの強さを増しています。
現代の大学ラグビー界、特にFW(フォワード)においては、身長180cmを超える選手が珍しくありません。その中で176cmという身長は小柄な部類に入りますが、彼はそのサイズを感じさせない力強いプレーでファンを魅了しています。密集戦での低さ、倒れてもすぐに起き上がるリカバリーの速さは、この体格だからこそ実現できる武器とも言えるでしょう。
ラグビーとの出会いと中学時代
彼がラグビーと出会ったのは、大阪市立茨田北中学校(まったきたちゅうがっこう)に入学してからです。小学生時代はサッカーやソフトボールに親しんでおり、そこで培ったボールハンドリングやフットワークが、現在のラグビーセンスの土台になっています。
中学時代からすでに頭角を現しており、大阪府中学校代表(大阪選抜)にも選出されました。全国ジュニアラグビー大会への出場経験もあり、早い段階からレベルの高い環境で揉まれることで、「前に出る精神」と「タックルの基礎」を徹底的に叩き込まれました。この頃から、体をぶつけ合うことへの恐怖心よりも、楽しさが勝っていたといいます。
天理高校での飛躍とキャプテンシー
中学卒業後は、奈良県のラグビー名門・天理高校に進学しました。ここで彼は、その才能をさらに開花させます。特に3年時にはキャプテンに就任し、チームを牽引する精神的支柱となりました。
第101回全国高校ラグビー大会(花園)では、天理高校を18年ぶりのベスト4へと導く快挙を成し遂げました。NO8(ナンバーエイト)として攻守にわたり体を張り続け、準決勝で敗れはしたものの、そのリーダーシップと献身的なプレーは多くの高校ラグビーファンの記憶に刻まれています。彼のキャプテンシーは、「言葉」だけでなく「背中」で語るスタイルであり、苦しい時間帯ほど一番きつい仕事をする姿がチームメイトの信頼を集めました。
天理大学での即戦力としての活躍
高校卒業後は、系列校である天理大学へ進学しました。関西大学Aリーグに所属する強豪において、1年時から公式戦に出場する機会を得ることは容易ではありません。しかし、太安選手はその高いディフェンス力とワークレート(仕事量)を武器に、ルーキーイヤーからリーグ戦や大学選手権のメンバー入りを果たしました。
入学当初はFL(フランカー)として出場することが多かったですが、上級生に混じっても遜色のないフィジカルと、物怖じしないタックルで即戦力として活躍。特に接点(ブレイクダウン)での激しさは大学レベルでも十分に通用することを証明し、天理大学の「堅守」を支える重要なピースとして定着していきました。
国際舞台での経験と成長
国内での活躍はすぐに評価され、年代別の日本代表候補にも名を連ねるようになります。U20日本代表候補合宿に参加し、そこでも持ち前のリーダーシップを発揮。
2024年には、JAPAN XV(ジャパン・フィフティーン)のキャプテンとしてサモアで開催された「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ2024」に出場しました。マヌマ・サモア、フィジー・ウォリアーズといった屈強なフィジカルを持つ海外勢に対し、彼は主将としてチームを鼓舞し続け、見事チームを優勝に導きました。この国際大会での成功体験は、彼にとって大きな自信となり、プレーヤーとしてのスケールを一回り大きくさせる契機となりました。
天理高校時代から輝くリーダーシップの真髄

太安選手を語る上で欠かせないのが、その卓越した「リーダーシップ」です。高校時代から現在に至るまで、なぜ彼は常にリーダーとして重用され、チームを勝利へ導くことができるのでしょうか。
「率先垂範」を体現する姿勢
彼のリーダーシップの根底にあるのは、「誰よりも体を張る」という率先垂範の姿勢です。練習中から一番声を出し、一番きついフィットネスメニューにも全力で取り組む。試合になれば、相手の大型選手に対し、誰よりも低く激しいタックルを見舞う。
口先だけで指示を出すリーダーには、誰もついてきません。しかし、太安選手のように、泥臭いプレーを厭わず、チームのために自己犠牲を払える選手には、自然と仲間がついていきます。天理高校時代、苦しい試合展開の中で彼が見せた鬼気迫るタックルが、チームメイトの闘志に火をつけたシーンは数え切れません。
コミュニケーション能力と求心力
言葉数は決して多くないかもしれませんが、必要な時に的確な言葉をかけられるコミュニケーション能力も彼の魅力です。チームの雰囲気が悪い時、ミスが続いた時、彼は冷静に状況を分析し、ポジティブな言葉でチームを鼓舞します。
また、彼は周囲の選手をよく見ています。後輩への声かけや、悩みを持っている選手への配慮など、ピッチ外での振る舞いもキャプテンそのものです。こうした人間としての器の大きさが、チーム全体に安心感を与え、「この人のためなら」と思わせる求心力を生み出しているのです。
天理大学でも、学年リーダーやゲームキャプテンを任されることがあるのは、こうした人間性が高く評価されている証拠でしょう。
U20日本代表主将としての重圧と成長
U20日本代表やJAPAN XVでキャプテンを務めた経験は、彼にとって計り知れない財産となりました。即席のチームをまとめ上げ、言葉や文化の異なる環境で結果を出すことは並大抵のことではありません。
特にパシフィック・チャレンジでは、フィジカルで勝るアイランダーたちに対し、組織力と規律で対抗する必要がありました。彼は日本の強みである「低さ」と「速さ」を徹底するようチームに求め続け、自らも最前線で体を張り続けました。結果として優勝を果たしたことは、彼のキャプテンシーが国際レベルでも通用することを証明した瞬間でした。
ポジション転向の真実|FLからHOへの挑戦
大学3年生となる2025年シーズン前後から、太安選手は大きな決断を下しました。それが、長年慣れ親しんだバックロー(FL/NO8)から、フロントローであるHO(フッカー)へのポジション転向です。
身長176cmが生きる場所を求めて
この転向の最大の理由は、将来的なトップレベル(リーグワンや日本代表)での活躍を見据えたものです。FLやNO8といったバックローのポジションは、世界的に見ても大型化が進んでおり、190cm・100kg超の選手がひしめいています。
身長176cmの太安選手が、大学卒業後もプロとして、さらには日本代表として世界と戦うためには、バックローではサイズ的に不利になる場面がどうしても出てきます。しかし、HOであれば、176cmという身長は決してハンデにはなりません。むしろ、重心の低さを活かしたスクラムワークや、フィールドプレーでの機動力が大きな武器になります。
HO(フッカー)に求められる能力との合致
HOは「第4のバックロー」とも呼ばれるポジションであり、セットプレー(スクラムやラインアウトのスローイング)だけでなく、フィールドプレーでの運動量が求められます。これは、太安選手がこれまで培ってきた最大の武器と完全に合致します。
- 豊富な運動量: 試合を通して走り続け、ブレイクダウンに顔を出すスタミナ。
- タックル力: 相手の突進を止める低く激しいタックル。
- ボールキャリー: 接点での強さと、相手をずらすハンドリングスキル。
これらの能力は、現代ラグビーのHOに不可欠な要素です。彼がHOとして大成すれば、セットプレーも安定し、かつフィールドではFLがもう一人いるような数的優位をチームにもたらすことができます。
新たなスキル習得への苦闘と進化
もちろん、転向は簡単なことではありません。特にHO特有のスキルである「スクラムの最前列での組み合い」と「ラインアウトのスローイング」は、一朝一夕で身につくものではありません。
スクラムでは、プロップ(PR)との連携や首の強さが求められます。スローイングでは、プレッシャーの中で正確にボールを投げるメンタルと技術が必要です。太安選手は、全体練習後にひたすらスローイングの練習を繰り返すなど、地道な努力を続けています。試合でもスローイングのミスが見られることもありましたが、経験を積むごとに安定感が増してきました。「挑戦なくして成長なし」を体現する彼の姿に、多くのファンが期待を寄せています。
プレースタイル解剖|勝利を呼ぶタックルとジャッカル
太安選手のプレーを象徴するキーワードは、「激しさ」と「賢さ」です。ここでは、彼のプレースタイルの特徴を技術的な視点から深掘りします。
刺さるタックルと起き上がりの速さ
彼の代名詞とも言えるのが、相手の懐に突き刺さるような低いタックルです。「チョップタックル」と呼ばれる、相手の膝下や足首を刈り取るタックルを得意としており、どんなに大きな相手でも一発で倒し切る力を持っています。
さらに特筆すべきは、タックルした後の「セカンドアクション」の速さです。倒した直後に素早く起き上がり、次の守備位置につくか、あるいはそのままボールに絡みにいく(ジャッカルを狙う)。この一連の動作のスピードが非常に速いため、相手アタックに息つく暇を与えません。これが天理大学の堅守を支える大きな要因となっています。
ブレイクダウンでの支配力(ジャッカル)
身長が低いことは、ブレイクダウン(ボール争奪戦)においては有利に働くことがあります。重心が低いため、相手よりも先にボールに到達し、強固な姿勢でボールに絡むことができるからです。
太安選手は、ジャッカルの名手でもあります。相手が孤立した瞬間を見逃さず、瞬時にボールに手をかけ、相手の反則(ノット・リリース・ザ・ボール)を誘発します。ピンチをチャンスに変えるこのプレーは、試合の流れを大きく左右します。HOに転向しても、このジャッカルのスキルは彼の大きな武器であり続けるでしょう。
ボールキャリアとしての推進力
ディフェンスだけでなく、アタックでも貢献度が高い選手です。派手なロングゲインこそ少ないものの、密集地帯で確実にゲインラインを越える力強いボールキャリーを見せます。
また、中学生時代に培ったハンドリングスキルも活きており、コンタクトする瞬間に味方へパスを繋ぐ「オフロードパス」も器用にこなします。HOとしてライン際や攻撃のアクセントとなる位置でボールを持てば、相手ディフェンスにとって非常に厄介な存在となるはずです。
今後の進路と2026年シーズンへの期待

大学ラグビー生活も終盤に差し掛かり、太安選手の今後の動向に注目が集まっています。彼が見据える未来と、私たちファンが期待するこれからの活躍についてまとめます。
大学最終学年(2025-2026)にかける想い
2026年1月現在、太安選手は最高学年となる新4年生を迎える直前(あるいは迎えた直後)の時期にあります。これまでの3年間で積み上げてきた経験を、すべて出し切る集大成のシーズンが始まります。
天理大学の悲願である「大学日本一」の奪還。そのためには、関西リーグでの優勝はもちろん、関東の強豪校(帝京、明治、早稲田など)を大学選手権で打ち破る必要があります。太安選手は、チームの核として、そして精神的支柱として、これまで以上のパフォーマンスが求められます。HOとしての完成度を高め、セットプレーの安定とフィールドプレーでの圧倒的な存在感を両立させることが、チーム優勝への鍵となるでしょう。
リーグワン、そして日本代表への道
大学卒業後の進路については、間違いなく「リーグワン」のチームからの争奪戦になるでしょう。特に、即戦力のHOや、FL/HOの両方をこなせるユーティリティなFWを求めているチームにとって、太安選手は喉から手が出るほど欲しい人材です。
そしてその先には、日本代表(ブレイブ・ブロッサムズ)への道が続いています。現在の日本代表では、HOのポジション争いが激化していますが、フィールドプレーに長けたHOは常に求められています。堀江翔太選手のような、ゲームメイクもできる万能型HOへの進化、あるいは坂手淳史選手のような、激しいコンタクトとキャプテンシーを持ったHOへと成長していくことが期待されます。
ネクスト・ステージでの課題
将来を見据えた時、克服すべき課題も明確です。それはやはり「セットプレーの精度」です。HOとしてのスローイングの成功率を100%に近づけること、そしてスクラムで世界クラスの重量FWに対抗できる組み方をマスターすること。
これらを大学時代にどこまで突き詰められるかが、プロ入り後のスタートダッシュを決めると言っても過言ではありません。しかし、彼のこれまでの成長速度とラグビーへの真摯な姿勢を見れば、これらの壁も必ず乗り越えてくれると信じています。
まとめ
天理大学ラグビー部の太安善明選手について、その経歴、プレースタイル、そしてポジション転向の真実までを詳しく解説してきました。
彼は単なる「うまい選手」ではありません。チームのために身を粉にして戦い、周囲を鼓舞し、勝利への執念を体現できる「闘将」です。FLからHOへの転向は、自身の可能性を広げ、世界と戦うための覚悟の表れでもあります。
記事の要点まとめ:
- キャプテンシー: 天理高校、U20日本代表で主将を務め、言葉と背中でチームを引っ張るリーダー。
- プレースタイル: 176cmの体を活かした低いタックル、ジャッカル、豊富な運動量が武器。
- HOへの転向: 将来を見据え、FLからHOへ挑戦中。セットプレーの精度向上が今後の鍵。
- 将来性: 大学日本一、そしてリーグワン、日本代表での活躍が嘱望される逸材。
これからも太安善明選手の挑戦は続きます。スタジアムで、あるいは画面越しで、背番号2(あるいは6, 7, 8)をつけてフィールドを駆け回る彼を見かけたら、ぜひその「低いタックル」と「熱いハート」に注目して応援してください。
あなたの声援が、次世代の日本ラグビーを支える大きな力になるはずです。次の試合、太安選手のジャッカルが決まる瞬間を、一緒に目撃しましょう!



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